2012年3月13日火曜日

キューバ有機農業ブログ: キューバ

2012.2.13

変なところでキューバと出会う


 先週、ネットで注文していたテインターの2002年の共著『supply-side sustainability」本が届きました。タインターはプロジェクトのリーダーなのですが、共著者の一人、アレンはウィスコンシン大学の植物学者、もう一人のトーマスも植物学者です。巻ページの紹介文では、二人のエコロジストと一人の考古学者によるこの本は、エコロジストと社会科学のジレンマを解消するアプローチを提示している。景観、組織、人口、コミュニティ、バイオマス、生物圏、エコシステム、エネルギー、持続性、人間社会の崩壊までを論じているとあります。

 もともと理系の地球科学を出発点とする私にとっては、複雑怪奇に見える文明社会の崩壊や先住民族のライフスタイルを生態学や複雑系の言葉を用いて、グラフやモデルで解き明かしていくアプローチは妙になじみます。これについてもいずれご紹介していきたいと思っていますが、作業が中断していて申しわけありません。

 さて、お話は飛びますが、来週、2月18~19日と長野の上田市で開催される「持続可能な地域作りの全国フェスタ」では、田中優氏と鎌仲ひとみさんのダブル講演会が開催されます。とりわけ、1日目のトークセッションは立ち見になるほどだそうなのですが、ミーハーな私としては、サインをもらえるチャンスもあるのではないかと思い、この2月10日に出たばかりの、デレク・ウォールの「緑の政治ガイドブック」(ちくま新書2012)「鎌仲ひとみ×中沢新一の対談つき」を買いました(鎌仲さんの本も、田中さんの本も他に何冊も持っていますが)。

 さて、この著者は、グリーンレフトに属する経済学者です。持続可能な経済や公正な社会政策等、緑の運動や緑の政治についてのコンパクトな入門書となっています。

 で、今日のお題です。まず、ページを開き、冒頭の推薦の言葉を見て驚かされました。米国やEU、ニュージーランドの緑の党の関係者と並んで、キューバの社会運動家の名が登場しているのです。

「んっ。緑の党の入門書になんで、赤き社会主義国のキューバが」

 という違和感があったのですが、ページをめくるうちに、その違和感はすぐに解消しました。

 この本の第二章は温暖化問題を扱っているのですが、こう書いています。

 人類は様々な問題を抱えているが(略)、具体的な代替策を示すことができるのは緑の政治だけである。すでにその実践例は、既成政党の政治家にとっては思いもよらない国・・・・キューバにある(P52)

 世界の中には実際に、持続可能な発展の仕組みを作り上げた国が一つある。その国では生活水準を上げながら、環境への影響を抑えている(略)。その国とは「キューバ」である。この国では、化石燃料への依存度を低め、一人あたり排出量を大幅に引き下げた。ただしキューバが昔からの緑のモデルであったわけではない。環境大臣さえ存在しなかった。ところが、1990年、ソ連邦が崩壊したため、ロシアから安価な石油を輸入できなくなった。エネルギー不足に直面したキューバは、グリーン・エネルギー計画に集中的に取組んだ(P68)

 オーストラリアのビル・モリソンが生み出した「パーマカルチャー」もホーリスティックなアプローチを現実社会で具体化したモデルであり、キューバで実施されている(P88)

 第三章は緑の哲学について、ディープ・エコロジーやエコ・アナーキズムを紹介していくのですが、ここではフィデルが登場します。

「エコ社会主義」も緑の政治に重要で多様な思想性を与えており、深く検討する価値がある(略)。マルクスと「エコ社会主義」に対しては批判もある(略)。ソ連などの社会主義国はマルクス主義に追従したために、環境を劣悪な状態にしたという批判である。それに対する反論として、「エコ社会主義者」は、「マルクス主義とエコロジーには接点があった」と主張し、その証拠として環境に強い関心を持っていたキューバのフィデル・カストロ元議長をあげる(P97)。

 第六章の生き残りをかけた戦略ではトランジション・タウンやグリーン・ニューディールが紹介されていくのですが、ここにもキューバは顔を出します。

 現実の世界で「トランジション・タウン」に最も近い例がキューバである。大規模にパーマカルチャーや低エネルギー社会への移行策を導入している。ただしキューバの場合、最初から明確な目標を持っていたわけではない。突然、安価な石油の輸入が止まったことによって強いられた戦略だった(P180)

 それでも緑の政治はコペンハーゲンで前進した。キューバ、ベネズエラ、ボリビアなどラテンアメリカの指導者たちが、経済的利害関係より「地球に対する敬意」と「社会的公正」を優先させることを要求したからだ(P195)

 この本はキューバのパーマカルチャーを都市農業を評価しています。

 こうしてハバナでは果物と野菜のほとんどを自給しており、人々を飢餓から救うことができた(P69) 

 もちろん、このブログを訪れる読者は、「キューバ研究室」の尽力によって、この主張がたんなる幻想にすぎないことが論破されてしまっていることは、よくご存知でありましょう。同研究室によれば、キューバは持続可能な国家でもないといいます。

 日本語が読める私たち日本人は、このように優れた日本語のサイトの存在によって、英国の緑の運動家といえども、所詮はこの程度の知識水準であって、現状認識に欠く幼児のようなものだということがよくわかるわけです。

 とはいえ、このような入門書にもキューバが顔を出すという事実の方を私は重視したいと思うのです。とりわけ、ホットなキーワードであるトランジション・タウンやピーク・オイルとキューバが結び付けられていることが。

 つまり、真実が違うにせよ、それに至る前提として、英国の運動家も話題にするほど、キューバが一定の評価は得ているのだという事実は、最低限の教養として知っておかなければならないのだなと私は感じたわけなのですが、皆さんはどうお思いになりますか。

2012.2.2

防災と防衛

防災本のご紹介

 このところ、ブログが中断していてすみません。書くことはさぼっていますが、勉強ネタの仕入れの手を抜いているわけではありません。

 まず、防災本の自己宣伝です。「リスク対策.Com」という危機管理の専門誌第29号の1月号で「フォーカス:相次ぐハリケーンから国民を守る、世界が注目するキューバの防災」として、キューバの防災について紹介をいただきました。どうもありがとうございます。

 また、「平和に生きる権利の確立をめざす懇談会」の1月31日のブログで以下のように紹介していただいております。

「むろん、社会主義キューバが天国でも何でもない、自由に制限があり貧しい国であることは、私も見て知っている(略)。しかし、この復興のありかたというのは、すごいではないか」

「キューバの軍と地域住民との共同による警戒・避難システムは、本来、米国からの軍事侵攻に対抗するためにつくられたものだったという。しかし、もう米軍が大挙してキューバに侵攻・占領する事態は考えにくい。キューバの市民防衛のありかたは、自衛隊の災害対策部隊への再編にも、示唆を与えていると思う」 

 なるほど、自衛隊ですか。関廣野さんも『フクシマ以後 エネルギー・通貨・主権』青土社(2011)で、自衛隊について言及されていましたが、キューバの市民防衛は、防衛についても参考となるわけですね。

 防災にからんで、若干、防災と防衛についての本のこぼれ話をします。キューバではハザードマップを作成していますし、キューバのリスク削減センターの国連リポートを見ると画像は悪いのですが、図のようなハザード・マップが掲載されています。ですが、本ではこのハザード・マップは掲載しませんでした。画質が悪いこともありますが、本当かどうかわからないからです。

 共著者である中村八郎さんからは、9月にキューバを再調査した折には、是非ともハザード・マップの写真や資料等をもらってきてほしいと頼まれました。そして、実際にムニシピオの防災管理センターにはハザードマップはありましたが、「絶対に写真を取らないでほしい」と頼まれたのです。

「そんなこと言ったって、国連のリポートにキューバのマップは、ちゃんとでているじゃぁないですか。たかが地図ぐらいオープンではないのですか」と聞いたところ、

「ああ、そのリポートのマップは、たぶん偽物かでたらめだ」

と言われました。

 その理由を聞いて、なぜ出せないかがすぐわかりました。事前に読んでいた防災の専門家、ベン・ウィスナー博士のリポートには、ベトナム戦争のときに米軍は、ここを壊せば洪水が起きるという堤を狙って爆撃したという書いてたことが思い出されたからです。つまり、防災は国防や軍事とも密接しているわけです。

 ハザード・マップは、有事の場合に自国民の命を守るための貴重な情報です。日本の国土地理院の前身も内務省だけでなく、帝国陸軍の参謀本部の測量局にありました。ですから、私の愛国保守、すなわち、右翼的な感性からすれば、ハザードマップを外国人にはとうていオープンにできないという、キューバの感覚はよく理解できます。

 一方、放射能のハザード・マップというべき、SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)による試算結果は、自国民には明らかにされない一方で、米軍にはオープンにされました。

 このブログを訪れるであろう皆さんは、私のような右翼的な感性はなく、左翼的な感性の持ち主であられる方が多いので

「ああ、日本はもはや旧軍事国家ではないのだ。キューバの如き秘密主義の軍中心の国家ではなく、以前の敵国であった米国にすら隠し立てせず、いち早くハザード・マップをオープンにするくらい、開かれた国となったのだ。なんと素晴らしいことだろう」

 とお感じになるのでありましょうか。ちなみに、4号機の水が漏れているという情報も在米邦人の情報の方が充実しています。

実験が大切

 さて、防災本で書いたとおり、キューバの防災システムは、驚嘆すべき叡知を持つ全能の神とも言うべき、秀才たちの机上プランによって作り出されてきたものではありません。何度も繰り返されるハリケーン災害で貴重な人命損失を出しながら、「今度、人命の損失を出さないようにするためには、どうしたらいいのだろうか」と失敗への反省をしながら、ゆっくりと構築されてきたものです。

 20世紀のパラダイムでは、驚嘆すべき叡知を持つ神の如き秀才・英才群が古今東西の知識や理論を集約することによって、問題解決のための「真理」を見つけられるはずだ、という想定の元に政策が構築されてきました。ですが、レジリアンス学派は、複雑系である社会生態システムにおいては、未来を予知することは不可能であると断言します。

 想定外の事態はあたりまえである、というのが彼らの主張です。であるならば、私たちはどのように問題解決に対応していったら良いのでしょうか。

 彼らは「安全な失敗」という独特な概念を持ち出します。つまり、社会が複雑化している以上、単独の解決策はないし、わからない。であるならば、政策もある種の「実験」とみなし、トライアンドエラーを繰り返していくしかない。しかし、実験である以上、当然のことながら想定外の事態に失敗も起きる。問題は、その失敗が許容できるかどうかだ。そう考えるわけです。

 さて、崩壊論のネタとなっているタィンターの本は読み終えたのですが、大ローマの崩壊理由のところでストップしてしまいました。ローマについての予備知識や基礎教養がない私は、皇帝の名称やらが次々と出てきても、イメージがわかず、塩野七生さんの「ローマ人物語」の写真集を見たり、読んだりしていたのですが、トーマス・ホメール・ディクソンが、ローマ崩壊をエネルギー面から分析していたことを思い出し、そちらを読み始めたところ、面白くて、脇道にそれてしまったのです。

 トーマスの本は、450ページもあるのですが、ローマ農業のエネルギー分析から始まり、崩壊について、タインターとホリングの理論を使いながら、最終的には、避けられない崩壊に対するプレッパーとなれ、と提唱しているのですが、その間でも、なぜ経済成長が止められないのか、幸せとお金が関係しないこと、経済成長を止めないために、アカデミックは独特の「話法」を使うこと、地震が怖いこと、ネットワーク理論からつながりが増えると想定外の事故が続くとチェルノブイリやスリーマイルの原発事故を分析して見せる等、重要な分析を次々と展開しています。ということで、ネタが充実するまで、しばらくお待ちください。

2011.12.19

期待度の法則

取材の醍醐味

 12月18日のブログでは、どうでもいいキューバの旅の印象にふれたので、今日は少し真面目に共著『防災大国キューバに世界が注目するわけ』の取材のこぼれ話をします。

 実のところ、「キューバ本はもう書かない。キューバはおしまい』と心に決めていました。有機農業、医療、教育、文化と書いてきて、もういいかげん種が尽きたといいいますか、キューバも収量逓減に達してしまい、もはやこれ以上投資をしても、それに対する見返りはさしてあるまいと感じていたからです。

 ですが、3.11の震災以来、とにかく、私のような人間にも何かやれることはないのだろうかと思い悩んだ末、何はともかく、5月の連休にキューバへと飛びました。

 これまでのキューバ本は、だいたい書くテーマが決まっていて、渡航する前にネットを使いテーマに関して調べられるだけ調べ、得られた情報をベースに原稿も7~8割書いてしまい、その上で現地インタビューによって補完するという手法を取ってきました。

 ですが、今回はまったくそのゆとりがありませんでした。『防災本』のあとがきで、中村さんも書かれていますが、3月28日にフライト便が確保できそうで、キューバの瀬戸くみこさんにも打診をし、なんとか取材ができそうだとわかった時点で、とにかく行くことを決めていたからです。事前取材の調査をせずに、キューバにいきなりでかけたのも十年ぶりです。

 そして、帰国以降も専門外であるエネルギーや防災の英文資料、西文資料をネットで検索しては、読み、整理し、まとめるという作業を毎夜深夜まで続け、ようやく、本として読者に読んでいただけるだけのコンテンツがおぼろげながら見えてきたのが夏。3月末に、とにかく、今の自分にやれることはキューバ情報を発信することだ、と渡航を決意してから、約半年後のことでした。

 さて、私はこれまで何冊か本を書いてきましたが、この本には、とりわけ、思い入れがあります。ひとつは、自費出版でも書きたいと切望したところ、旧知の築地書館の土井二郎社長が出版に賛同してくれたこと。第二は、防災についてまったくの門外漢である自分の非力を補完するため、地域防災の専門家である中村八郎さんに同行を願ったこと。第三は、出版にも時期があるため、地震や災害の話題がホットな夏までに出したい、取材は1回で十分と築地書館の土井社長から依頼されていたにもかかわらず、わざわざ9月に追加取材にでかけたため、ページ数も増え、かつ、この11月まで出版時期が延びてしまったことです。これも、中村さんも興味があると言われていたことですが、高潮に壊滅した漁村2カ所と脱原発の象徴である 風力発電、そして、分散型発電所を是非調査したいと私が願ったこともあります。

 ということで、9月の取材は、以前の私流の手法どおり、かなり基礎知識を頭に入れたうえで取材に挑むことができました。

 で、今日のひとつの本題です。

 取材の醍醐味は当初頭で描いていたことと、まったく違う回答がインタビューで得られることです。そのひとつが、アントニオ・グィテラス発電所でした。グィテラスはキューバが誇る最新鋭の火力発電所です。それが事故を起こしたため、キューバは分散型発電に取り組まざるを得なかった。そこで、発電所のベラルミノ・ソカラス・バスルト所長からは、いかにグィテラスが優れた発電所であったか、それが、分散型発電になって、グィテラスが発電に占める優位が失われて悔しい。そんな回答が得られるものと想定して取材に挑んだのですが、「本発電所が壊れたおかげで、キューバ全体が分散型発電に取り組むことになったし、それは全体の国益を考えればよいことだった」という想定外の発言が飛び出したことです。

「ほう。自分の発電所のことだけではなく、国全体の電力事情のことを考えているのか」

 当初の予定とは全然違ってしまいましたが、ハバナからマタンサス州まで基礎産業省のジープでわざわざ案内いただいただけの甲斐はあったと感じた一瞬でした。

革命は嘘をつかないという戦略

 次にこの9月の執筆取材で最も印象的だったのは、2008年にハリケーン・アイクで大変な被害を受けたオルギン州のムニシピオ・ヒバラの共産党書記長、ロサ・マリア・レイヴァさんの「革命は絶対に嘘をつかない」という発言でした。ご関心がある方は共著を読んでいただければありがたいのですが、かいつまんで言えばこういう話です。

 ハリケーンの大打撃により、ヒバラでは多くの人々が家屋を失った被災者となりました。

「いったいいつになったら家に帰れるのだ」

 書記長は多くの人民から詰め寄られたそうです。ですが、被害は甚大で復旧には5年はかかると見込まれていました。


誰かの人生misrebleを作る方法

 「年内には片がつく。そうすればすぐにでも帰宅できますよ」

と出まかせを言えば、その場は人民を安心させることができます。ですが、年が明けてもまだ帰れなければ「あの時、帰れると言ったじゃないか。嘘だったのか」と人民は政府をだんだん信用しなくなっていく。

 そこで、書記長は「5年はかかります」と真実を告げたそうです。当然のことながら、それを聞いた人民たちはショックに打ちのめされました。ですが、政府の苦闘で、結果としては3年後に人々はなんとか帰宅でき始めます。最初、想定していたよりも早かったのです。すると、「そんなにかかるのか」と最初は政府に文句を言っていた人民たちも、改めて政府を信頼するようになったと言います。ここには、逆説的ながら、弱さの強さがあります。

 キューバから帰国後に、知人である在長野県の医師、色平哲郎氏にこの話をしたところ、「うーん、キューバの官僚たちは人間の心理のツボを実に良くおさえているな」との感想をもらされました。

 色平氏によれば、医療も同じであって、ケアに対する満足と不満は一義的に物理的に決まるものではなく、患者の「期待値」によって決まるからなのだそうです。当初、自分が期待していたケアよりも十分な治療を医師がしてくれなければ、どんな患者も不満を抱きます。ですが、最初さして期待をしていなければ、予想外の治療結果に患者は満足します。ですから、色平氏は

  満足度=期待値―結果

 という方程式がなんにでもあると言います。それは、講演会でも同じことでしょう。著名な講演者の講演会を「面白だろうな」と期待に胸ふくらませて聞きにいき、月並みな講演しか聞けなければ「なーんだ」と落胆しますし、聞いたこともない無名の演者の話をろくに期待もせずたまたま聞き、想定外の興味深い話が聞ければ、「あれ?。結構よかったじゃん」と満足できます。

 ということで、「災害の被害は甚大だ。そんなに簡単には復旧できないし、すぐに帰宅もできやしない」。そう真実を告げることで、人民たちに余計な期待度を抱かせなかったキューバの指導者たちの戦略には、老子の小国寡民の智恵を想起させる凄い智恵があると私は思うのです。

 キューバ流に老子を訳せばこうなります。

原文

 其の食を甘しとし、其の服を美とし、其の居に安んじ、其の俗を楽しましむ。隣国相望み、鶏犬の声相聞こえて、民は老死に至るまで相往来せず

私なりのキューバ流解釈

 食事が粗末であってもそれが美味しいものだと思わせ、衣服が粗末であってもそれが美しいものだと思わせ、住居が狭くてもこれでいいのだと安住せしめ、シンプルなライフスタイルであってもそれで楽しいものだと思わせてしまえ。さすれば、すぐ近くの目に見えるところに米国の豊かな生活があり、CNN放送が入ってきたとしても、現在の生活に満足している人民たちは革命キューバに安住し、年老いて死ぬまでも亡命することはないだろう

 ですが、政治というものは、そのようなきれい事だけですまされるはずがありません。国家の正統性を保つためには、真実を告げるよりも人民をペテンにかけて洗脳をすることも必要かもしれません。歴史を調べてみると驚くべき嘘をついて国民をペテンにかけた人物に出くわします。より正確に言うならば、真実を隠し立てもせずに洗いざらいぶちまけるのではなく、自分に都合がいい一部の情報だけを意図的に流布するという情報操作を行なうことで、国家の正統性を保った人物です。私は彼のことを希代のペテン師、偉大な政治家だと思っています。もちろん、日本人です。次回はこの人のことについて書きます。

2011.12.18

枝廣さんとの対談の補完〜寝そべる風車


米国に関心がない若者たち

 先週は東京で枝廣さんとともに、キューバの防災とエネルギー戦略について話をさせていただきました。このブログで書いたとおり、レジリアンス理論をもとに、ジョセフ・テインター教授の複雑な社会崩壊論を掘り下げようと思っていました。2004年と10年近くも前ですが、枝廣さんは、ハンガリーのバラトンで教授とも会っており、ツーショットの写真がネット上に出ているからです。

 ところが、私の力不足もあってか、あまりこの議論は掘り下げられませんでした。

 今回は講演では冒頭で、深夜にカマグェイからハバナへと戻るプロペラ機から私がハンディ・ビデオで撮影したハバナの夜の暗さを見ていただき、凄まじいハリケーンでもほとんど死傷者がでないキューバの防災力と原発を廃止した以降のキューバの節エネやエネルギー教育について話させていただいたのですが、意外だったのは、会場に参加されていた皆さんは、どうも防災やエネルギーよりも、写真から伝わるキューバ人たちの生き方そのものに関心をもたれたことです。

 もちろん、枝廣さんの勉強会に参加されているような方たちですから、スローや幸せに関心を持たれているのも当然なのですが、その人たちにもキューバが強力なインパクトを与えるパワーを持っていることは意外でした。

 前回、有機農業研究会でお話させていただいた折にも、参加されていた若い女性、長野県で有機農業による就農を目指されている方たちから「興味がある外国はインドやアフリカ」と言われてショックを覚えました。

 なんだかんだ私の世代は、圧倒的なまでの米国の影響下で育ってきました。米国が憎いという反米、米国が嫌いだという嫌米であれ、米国のことを意識していることにはかわりはありません。ところが、彼女たちは米国そのものに関心がないのです。愛の反対は憎しみではなく無関心です。となれば、「行きたくも行きたくなくも、候補にあげる以前にまったく興味がない」と究極の三行半を米国に下してしまっている彼女たちは、まさにパーフェクトな脱米を果たしているといえましょう。

 こうした若い感性を象徴するものとして、私が関心を持ってちょくちょく訪れているブログに「女。MGの日記」があります。

 もともとは、2008年に「没落エリートの出現―ビジネス社会から疎外される高学歴就職難民たちー」とNGさんが書かれた記事にアルファブロガーの小飼弾氏が噛み付いたので、「これは面白い」と着目したのですが、その「没落思想」は年々磨かれているようです。

レジリアンスな風力発電

 さて、会場では、防災と関連して「ハリケーンがあっても風車のタービンは大事なのか」という質問がありました。枝廣さんがレジリアンスについて、「強風が吹けば、しなかやかに寝そべる草」を比喩としてあげられたので、「キューバのタービンも強風が吹けば分解して寝そべるのだ」と答えました。実際、フィデルは、こんな発言をしています。

「近年、世界で最も広く用いられているタイプの再生可能エネルギーが風力となっていることは良く知られている。その導入コストは伝統的なエネルギー源(注:いわゆる火力発電のこと)に既に匹敵する。この分野での開発戦略として、風力エネルギーの開発では、我が国を頻繁にたたくハリケーンに耐えるように設計されたものを含め、異なる技術が開発されている(略)。このキューバのエネルギー革命は、我が人民や世界の他の人民に役立つ教訓となろう。祖国か死か!。我々は勝利する! (大喝采)」

 フィデルが、「エネルギー革命」について初めて言及したのは、ピナル・デル・リオ州で2006年1月17日に行ったこの演説なのですが、この写真をご覧ください。オクスファムが出している『キューバ災害リスク削減のパラダイム(CUBA Paradigma en la reducción de riesgo de desastres)』というネット上のブックで見つけたものですが、実際、風車が寝そべっていることがわかります。

 とはいえ、言葉足らずであったことを、この場を借りて補完させていただきます。これは青年の島にあるフランス製のタービンであって、それ以外の風車、例えば、ヒバラにあるスペイン製や中国製のタービンは、このようなシステムにはなっていません。強風に耐えたのは偶然です。おまけに、スペイン製のタービンは、ハリケーン・アイクの高波による浸水で電気系統の故障を引き起こし、修理をしなければならなくなりました。そこで、その後にできた中国製のタービンは、海水に浸からないよう、1mのコンクリートの土台の上で高くして作ってあると言います。

「災害を受けるたびに弱くなるのではなく、年々強くなるキューバは本当に面白いわね」との感想を枝廣さんは漏らされていましたが、フィデルが2006年に5月のメーデーで結んだ次のような言葉もそのひとつかもしれません。

「我々は、これまでやってきたことが、単なる始まりであると言うことができる(略)。もし、今、キューバによってなされている努力が、世界のそれ以外のすべての国においても模倣されるならば、新たな原発の建設に15年のモラトリアムが宣言できよう。何も我々を止められない。祖国か死か!、我々は勝利する! (大喝采) 」

東京圏からの人口流出が始まった

 キューバは「止められない」のかも知れませんが、日本は止められます。事実、お原発も無事、冷温停止宣言がなされました。そして、お原発が冷温停止したかわりに、お原発の海外輸出は止められません。

 講演では「こうした社会を変革するにはどうしたらいい」と聞かれたのですが、私にもわかりません。
 ただ、ジョセフ・テインター教授によれば、ローマが崩壊するときも、マヤが崩壊するときも、搾取に搾取を重ねられても農民たちの武装蜂起、革命は起こりませんでした。ただ彼らは静かに都市を支えることを止めたのです。

「グローバル社会の中で生き残れ、経済成長をせよ」という私からすれば、あまりにもアナクロニズムで時局認識を欠いたスローガンに対して、前出の女・NGさんは「貧乏族」という対抗概念を提示して、実に斬新な新たなライフスタイルを提示されています。

 そう、いくら企業があおっても、モノを買わずにシェアしていく貧乏族の静かな抵抗にはかないません。おそらく、あってもなくてもどうでもいいものを生産しているグローバル企業は次々と倒産し、本当に生活に必要なモノだけを供給できる地域〜安全な空気、水、食べ物、友達、スローな時間、思い出といったモノがある地域が生き残っていくのではありますまいか。

 私のキューバの旅もそうです。最初はアバナ・ビエハの伝統的な町並みを散策したり、トロピカーナショーに感動したものですが、16回もでかけていると、半分仕事である取材調査は別として、どんどん楽しみがマイナーとなっていきます。プライベートでは、昨年、ミゲル・バヨナさんと一緒に夜行バスでカマグェイに出かけ、バスの乗り換えの時間接続が悪く、3時間近くもただバスの停車場でアイスクリームを食べながら、キューバ人の待ち合い客を眺めていた何もないあの無駄な時間。そして、今年の9月に、やはり取材日程に空きができ、ミゲル・バヨナさんの長男のフィアンセ宅を訪れ、冷凍マンゴーにたっぷりと砂糖を入れて作ってくれたマンゴージュースをいただきながら、家の前の安楽椅子に揺られ、涼しいそよ風� �吹かれながら、お兄さんが奏でる即興のギター曲をただボーっと聞いていたあの時間。これが最高の想い出となっています。

 つまり、飛躍するようですが、マネーの支出を抑え、自分の感性にしたがって極力自分が好きなことに極力時間を使うこと。これが庶民ができる抵抗なのだと思います。となると、当然のことながら、脱東京、脱都会生活という選択肢も視野に入ってくるはずです。

 実際、カレイドスコープ氏のアーバン・プレッパーというサイトを見ると、東京圏からの人口流出が始まっているとの驚くべき記事がでています。東京の人口が減ったのは第二次大戦中のとき以来ではないでしょうか。もちろん、これは、お原発が関係しているのですが、帝都の衰退と地方の隆盛という歴史的局面に入りつつあるのではないかと私は思っています。新しい生き方が始まっているような気がします。

2011.8.19

オタクのススメ


モットモット、変質的オタクにワタシハナリタイ

 日々、このブログにアクセスしてくださっている皆さん。ありがとうございます。3.11以来、ずっと、レジリアンスやキューバの防災にこだわり、ネット上をはいずりまわってきたのですが、ようやく作業が一段落したので、久しぶりに書きます。

 グーグルにキーワードを打ち込んでは情報を探す。気になる情報をクンクンと嗅ぎまわり、めぼしいネタを見つければ、がっぷりと喰らいついて放さない。ストーカよろしくどこまでも追い回す。つまらないと思った情報は未練なく切り捨て、自分の感性に馴染むエピソードのエキスを酒を蒸留するかのように濃縮する。

 司馬遼太郎にせよ、松本清張にせよ、文章家というのは、こうしたある種変質者的な要素がある。で、拙著、没落先進国を高く評価してくれているブログを見つけた。

「吉田太郎というおじさんが書いた本なのですが、何やらこのおじさん、リンク先のブログにもるように、やたらキューバにこだわっている。まあ、早い話がキューバオタクの人だ」
                             (略)

「データや現状報告なども精緻で良いのですが、内容が少々回りくどいのが難点です。ただ、この本、趣旨としては非常に面白い。なので、キューバの人が語った、印象に残ったフレーズだけいくつか紹介します」

                             (略)

「先進国はモノはあっても遊ぶための時間的ゆとりがありません。バケーションでも、その国の本当の姿ではなく例えば、きれいなビーチにだけ行く。ですがキューバにはたっぷり時間があります。昼はおしゃべりをしながら料理を作り、家族はいつも笑っている。つまり、モノがなくても気持ちがお金持ちなのです」

 これは、「芸術文化を大切にした国づくり」という章で語っていたキューバの芸術家の言葉の引用ですが自分も、まさにそう思います。この際はっきり言いますが、もう欲望のままにカネを稼いでプール付きの大きな家に住み大量消費するような米国資本主義的な上昇志向モデルは限界点に達しているのです。みんなでそれをするには地球があと3個は必要です。

                             (略)

 日本は経済の前に文化大国でもあります。日本はアニメやゲーム産業が盛んですが、それらを産み出す末端のクリエイターの待遇なんか良いとは言えません。食うや食わずの彼らの支えになっているのは文化的な価値を創造してるという満足感、その一点のみでしょう。カネやモノの独占を目指す社会からもっとシェアし、文化を重視する方向に向かえば、この国は相当なポテンシャルがあると思います。そう、あの300年平和が続いた江戸時代のように」


 うーむ。なんと、素晴らしい書評だろう。私のことを「キューバオタク」と評価してくれている。

 個人的には「キューバ・フェチ」とか、「異常キューバ嗜好変質者」とか、もっと過激な表現をしてくれると嬉しいのだが。日本社会では「オタク」というと、社会適応力やコミュニケーション・スキルを欠落したマイナスのイメージがある。
だが、「オタクと呼ばれる人が、私は個人的に好きだ」とブログ上で、主張している人物がいる。

 ブログは、その理由をこう書く。

「自分の心に正直に、忠実に生きることは容易ではない。常識、他人の目、世間体、前例等、黙って従えとプレッシャーをかけてくる。すべてを「~らしく」という決まった形に当てはめようとするプレッシャー。本当に「自分らしく」生きることは、とてもむずかしい。でもオタクは少なくとも、自分が心から愛することを明確にわかっている。

 普通でいたいと願い、こだわりもなく、他人に協調することにばかり気を取られて生きるよりも、たとえ世間から揶揄されようが、自分に忠実に生きる姿勢を崩さないオタクの生き方にこそ、人間としての魅力を感じる。ソウイウモノニ、ワタシハナリタイ」

なぜ幸せが見つけられないか 

 さて、今日、東京でキューバについて話す。循環型社会研究会が「日本再生と農業」と題する一連の講座の一コマを担当させていただく。

 他に講師陣としては、石油ピークの石井吉徳氏、パーマカルチャーの糸長浩司氏、大地の会と藤田和芳氏、国学院大学の古沢広祐氏等とゴージャスなメンバーが並ぶ。

 ちなみに、石井氏は個人的な面識はないのだが、著作でキューバを紹介されているし、他の三人もいずれもキューバを訪問されている。藤田氏とはキューバ視察後にお話させていただいたことがあるし、糸長氏はキューバに一緒に言ったことがあり、古沢氏とはキューバで開かれた有機農業の国際会議の会場であった。

 で、キューバと縁があるのかどうかわからないのが、「ミドリムシは地球を救う」の出雲充氏である。個人的には、同氏の講演を一番聞いてみたいと思っている。
 キャリアからしてぶっ飛んでおり、社長インタビューでは、こんな鋭い分析をしている。

「私は講演等でチャンスがあれば夢を持っている人はどれくらいいますかと聞くのですが、大体参加者の3%くらいしか手を上げる人がいないんです。いま現在の自分に夢がないことは別に異常なことを大前提とすべきなのです。就職活動の世界では夢を持っていることがさも当然かのように言われていますが、大体、『夢を見つけろ』とか言っている人ほど自分のことについて話さない」


上部と漏らしやサイト

 では、なぜ、夢が持てないのか。出雲氏は夢を見つけるには、色々なものを「そぎ落とす」作業が必要なのだが、日本はその順番がおかしい、と指摘する。
 氏によれば、

①やりたいこととやりたくないこと(want)
②できることなのかできないことなのか(can)
③自分がやるべきことなのかそうでないのか(must)

の順番でそぎ落とし作業をやるべきなのだが、日本ではこの順番が逆なのだ。

 大学進学を例に取れば、
①いい大学に進学しなければなららない(空気)
②自分の成績ならどこにいけるか
③まぁ、ここだったら行きたいとしよう
 となっている。

 こういうやり方では夢は出てこないし、仮に出せたとしても「小さい夢」になってしまうと氏は主張する。だから、あせらず、ひたすら自分と向きあい、「want」を探るべきだ、と氏は示唆する。これは、まさに前述したオタクそのものではないか。

個人主義が蔓延するラテンは幸せ

 さて、今日の本題。枝廣淳子さんは「幸せ経済社会研究所」で、幸せな社会を考え始めている。

 「没落した方が幸せ」になると主張してきた私としては、幸せと経済、そして、ソーシャル・キャピタルやコミュニティとの関係は、大いに気になるのだが、最近読んだ「幸せ本」で最も面白いと思ったのが、前述したオタクを評価した目崎雅昭氏の「幸福途上国ニッポン~新しい国に生まれかわるための提言」(2011)アスペクトなのだ。

 目崎氏は世界100国をわたり歩き、なぜ、日本が幸せでないのかを経済、文化、社会、脳科学から解き明かしていく。

 ひとつ面白かったのが、韓国と日本と台湾の分析だ。いずれも儒教文化圏に縛られ、幸せ度が低い。

 また、共産主義が人々を幸せにしない、という図表も出てくる。共産主義の持つ抑圧性が人々の幸せを奪ってしまうのだ。一方、ダントツで幸せ感が高いのがラテンアメリカ文化圏。おきらくラテンの気分が、経済的停滞や治安の悪さを克服し、人々の幸せ感は押しなべて高い。氏は、医療と教育が無料で幸せ追求を国是とするブータンも、社会の安定を個人の自由や権利よりも重視している。したがって、「日本をはじめ、多くの国にとって国家の目標とならないばかりか、あまり参考にもならないだろう」(P76)と鋭く分析している。

とすると、

共産主義であり、かつ、儒教文化圏に属する北朝鮮はどうなのか。
共産主義であり、かつ、ラテン文化圏に属するキューバはどうなのか。

 これは、大いに気になるところだ。2011年5月、OECD加盟国の幸福指数が発表されたことに対抗し、北朝鮮も世界幸福指数ランキングを発表している。それによれば、

1位:中国(100ポイント)
2位:北朝鮮(98ポイント)
3位:キューバ(93ポイント)
152位:韓国(18ポイント)
203位:米帝(3ポイント)→最下位

 となっているのだが、この大本営発表はあまり参考にはならないようにも思える。で、目崎氏が、ネタとした論文はここで読めるのだが、残念ながらキューバと北朝鮮が載っていない。

 目崎氏は、人々が助け合う社会は良いとする。だが、同時に、個人に寛容ではない社会は幸せになれないと主張する。「利己主義」VS「社会主義」の対立を「個人主義」+「社会主義」で克服しようとする。かつての日本は、最も成功した社会主義国と呼ばれてきた。だが、個人主義、他人と違うオタクを排除することで、幸せを感じられずに来た。そして、社会的セーフティ・ネットは壊れている。どうも、ひたすらマニアなオタクやフェチに寛容な社会にチェンジするしか、日本は幸せになれそうにもない。

 というのも、オタクやフェチを排除する日本社会の均一性、他人と違った行動を認めない閉鎖性こそが、「ムラ」を産み、このムラ社会こそが、どうみても止めた方がいい「泊原発」を再稼動することにつながっているからなのだ。

 山本太郎氏も参加した集会で「こんなことになった、原発がわたしは大嫌いです」とまっすぐな意見が、子どもたちから向けられるなか横一列に並んだ内閣府、文科省、保安院の10名の"おとな"たちは、うつむくばかりという風景はどうみてもムラ社会が産んだとしか考えられない。

 特殊な理論体系と哲学を抱き「私は原発は大好きだ。事故が起こることは素晴らしい。全身に放射能を浴びまくり、α線やらβー線でDNAがブチブチ引きちぎられることに異常なまでの快感とエクスタシーを感じる。
 私はこうした気持ちを皆さんにも味わってもらいたい」

 このように信じている人物ならば、カリスマ宗教家よろしく、うつむかずに堂々とニコニコしながら、そう主張できるだろうし、それは、個人の哲学の問題であろう。

 原子力ムラの皆さん、いま毎日シアワセですか?
 

2011.6.14

風速97メートルのレジリアンス社会

 毎日の当ブログへのご訪問ありがとうございます。いま、キューバの防災のことが、何か日本の役に立つのではないかと調べていて、西語の文献とかも見ているのですが、いいかげん厭になってきました。言い回しがまわりくどく、1ページとかもいわんとすることを集約すると、「お互いに助け合うことが大切だ」くらいになってしまうんです。

 現地を見てきて、本当に命を大切にしている人々だ、ということが表情、声音とかからわかってくるのですが、それを「言葉」に置き換えると、どうも響くフレーズにならない。 その点、役立つのが米人たちが作っているサイトの情報です。同じ先進国だけに、キューバがやろうとしていることを「ツボを得た言葉」で表現してくれています。

 ということで、キューバ関連の情報をつまみぐいしながら、参考になるな、と思ったことを極端に歪曲して紹介します。

 今日のお題は「風力発電とレジリアンス力」です。もちろん、レジリアンス力なんて言葉はありません。私が思いつきで勝手に作っただけです。ですが、枝廣淳子さん講演録等を画像で見てきたため、どうもレジリアンス思考が脳回路にこびりついてしまったようです。

 もともと、分散型エネルギーや自然エネルギーは、今回は関心がなかったし、調べる気もさらさらなかったのです。ですから、今回の取材計画にも入れていませんでした。後になって、防災を調べていたら必然的にでてきてしまった。まさにヒョウタンから駒ということなのです。
たしかに「200万都市」を書く前の2001年5月に、サンティアゴ・デ・クーバの自然エネルギー研究所やNGOクーバ・ソラールを取材したことはありますよ。ですが、その頃は、クーバ・エネルヒーアなんていう組織はありませんでした。エンリケ・ホセ・ヴァローナ教育大も、ジョシ・プエドを調べるために訪れたことがありますが、ここが、自然エネルギー教育カリキュラムの発祥の地だということも知りませんでした。無知であるとまことに取材は不十分になってしまいます。

 さて、お話を戻して、ニコラス・ニューマンという自然エネルギー専門のジャーナリストが、キューバと米国の風力発電の技術力差をこんな風に論じています。

「現在、キューバ国内には、様々な国から技術提供を受けた風力発電基地がある。だが、風力技術は、襲来するハリケーンへの対応力という課題を克服しなければならず、キューバには、その方法がまったくない。キューバ電力公社が購入している風力技術は、ハリケーン・シーズン中に強風の警告がなされれば、風力タービンをたたむことが必要なのだ」

「一方、米国国防総省は、エネルギー企業、ノレスコ社の協力で、このハリケーン問題を解決しているようだ。2005年にグアンタナモにある米軍基地には1200万ドルをかけ山上に3.8MWの風力発電基地を設置したが、この発電所は最大225km/hの風力に耐えられるよう設計されているのである」

 はい。この最大225km/hを日本で馴染む単位に換算しますと60m/秒です。すごいスピードです。さすが、米国。まさに力技です。

 1958年(昭和33年)の石原裕次郎の映画に「風速40米」なんていうのがありましたが、これを軽く超えています。1.5倍です。ちなみに、台風の強さの表現には、グレードがあり、台風の次が、強い台風、その次が、非常に強い台風、最後が、猛烈な台風で、風力が54.1m/秒となっています。強風にあおられ、小川ローザのスカートがめくりあがり「オー・モーレツ!」と叫ぶコマーシャルがヒットしたのは、1969年 (昭和44年)のことですが、日本では台風の最高速度が「モーレツ」なんです。

 そして、記録上、国内の平地での最高モーレツ記録は、1965年9月10日の台風23号、室戸岬における69.8m/秒となっています。米国の優れた技術力をもってすれば、日本の台風なんて軽く克服できるといえましょう。

 ですが、キューバでは、そうは問屋がおろしません。2008年8月30日のハリケーン・グスタフは風速64.8m/秒、突風はこれまでの記録の中でも最も早く94.8/秒でした。ピナル・デル・リオ州のロス・パラシオスの気象観測所では風力計が吹きちぎれてしまったといいます。95mとは60mの1.6倍です。ああっ、設計基準以上の風が吹いてもメカは壊れないのでしょうか。いくら60mもあれば大丈夫と思っていても、想定外の風速でメカが壊れてしまう、なんて非常事態もありえないわけではありません。

 となると、「警告がなされれば、タービンをたたむ」という一文がレジリアンス的には俄然意味を持ってきます。で、調べてみると「イスラ・デ・ラ・フベントゥにある実験的な風力発電基地では、必要があれば45分で完全に分解できる風車が使用されている」という一文がヒットします。笑えます。

 枝廣淳子さんは、5月11日に開催された「トランジション・タウン」の講演会でのレジリアンスの説明で、「しなやかな強さ」と表現されていますが、強風が吹けば逆らわない。ただただ分解されて、大地に寝そべり、嵐が過ぎ去るのを待つ。ざわわ、ざわわのサトウキビのように、分解される風力発電所は、まさに、レジリアンスの知恵ではないかと思えます。今は無人となった日本の灯台ですが、映画「喜びも悲しみも幾歳月」で描かれたように、かつては灯台守たちがそれを守っていました。今回の旅で久しぶりに訪れたキューバのモロ要塞にも灯台守がいました。機械化の進んでいないキューバのこと。きっと実験風力発電基地にも、「タービン守」がいるのではないでしょうか。風が吹けば、45分で分解するだけが仕事。です� �、きっとこの仕事に従事する父親のことを息子や娘は誇りに思うに違いありません。貧しい国家が、国民に電力を供給するために貴重な外貨を使ってやっと手に入れた最新鋭のハイテク機。それをハリケーンから守るのが、お父さんの仕事なんだと。

 もちろん、これは、私の想像です。ですが、これって、絵になるシーンだと思うんですがねぇ。

 イスラ・デ・ラ・フベントゥ。機会があれば行ってみたいものです。人口7万人程度の小島ですが、本土から離れているうえに、ハリケーンの常襲地帯だけに、嵐の中では鎖国状態になってしまう。そこで、バイオマス、ソーラーも使って自然エネルギー自給を目指しているんだそうです。島にある病院もハリケーンの最中に電源喪失に陥らないよう耐ハリケーン強化プロジェクトに取組んでいると言います。だって、電気がなければ手術もできないじゃあないですか。

 今日はくだらない昔映画ネタに、医療、電気、風力、レジリアンスをつないでみました。

2011.5.16

赤ちゃんを大切にするイデオロギー

今年意図していた計画が変わった

 拙著「文明は農業で動く」の書評がネットに出ています。「昔の農業が意外とイケてるという話」と「書評:優雅なる没落」さんです。どうも御拝読ありがとうございました。とりわけ、「優雅なる没落」氏にはこうまとめていただいております。

『著者のスタンスは、単純に過去を礼賛しているというわけではない。伝統知識もまたインベーションやアントレプレナ精神によって改善が積み重ねられたものである。しかし、近代農業との一番の違いは「生産性」と「安定性」を天秤にかけたときに、安定性や持続性が重視されるというところにあるのだ。このあたり、農業だけに閉じた話とは、とても思えない。自分の身の回り一つとっても、クラウド一直線で本当に良いのだろうかなど、考えさせられる点が多い』

 著者のいわんとすることを端的に表現した書評で、的を射る書評です。ありがたいと思います。

 さて、「効率性」と「リスク」を両天秤にかけたとき、人類は「安定性」を選んできました。「ハイリスク・ハイリターン」ではなく、「ローリスク・ローリターン」を選択してきました。頭の中での論理上はともかく、「ローリスク・ハイリターン」などという美味しい話は、この自然生態系と渾然一体となった社会生態システムの中にはなく、「ハイリスク・ハイリターン」を選んできた民族はことごとく滅びてきました。いま残る持続可能な農法も存続してきたコミュニティも「ローリスク・ローリターン」を至上命題としてきたのは、必然的な結果だったのです。本書では、このようなことを主張したかったのです。

 そして、持続可能な伝統社会は「持続可能な農法(ソイル)」、「持続可能なコミュニティ(ソサイアティ)」、そして、「持続可能なスピリチュアル(ソウル)」を三本柱に成立していました。とはいえ、この本では、農法とコミュニティについては書きましたが、最後のスピリチュアリティの部分は、インドの「ビルクシャ・アーユルヴェーダ」を少し紹介しただけで、意図的に除外しました。エコロジーと社会の部分ならば、「レジリアンス理論」や「パナーキー理論」によってある程度切り込めます。ところが、「崇高なる意識を持った僧侶が、聖なる図形ヤントラを描いてマントラを唱えるだけで、病害虫被害が防げる」などという話は、とうてい近代科学では歯が立ちません。同じ、テクニックを用いても、意識レベルが低い人物� ��行うと効果がでないので、科学の原理、再現性が通用しないのです。

 では「聖なる意識」とはいったい何を基準に判断されているのでしょうか。なぜ、伝統社会はスピリチュアルにこだわってきたのでしょうか。それは、持続性とはどのようにかかわりがあるのでしょうか。

 「とんでも本」にリスト・アップされそうな、あぶないギリギリの眉唾領域ですが、そのあたりの謎を解き明かしてみたい、というのが、今年私が本書を書き終えた直後に心思い浮かべたテーマでした。ところが、この文明本の修正原稿を書き上げたまさに翌日に「3.11」、「ハイリスク・ローリターン」の原発事故が起きてしまったのです。

キューバの有機は話題になっても防災は紹介されない

 さて、3.11以降、私にできるひとつのことは、このブログで書いたように、キューバの「防災力」を調べることでした。なぜなのか「防災力」については、あまり日本語では紹介されていないからです。

 例えば、日本のキューバ研究のアカデミックの最高峰のひとつは、「アジア経済研究所」でしょう。2009~2010年は「キューバ研究特集」となっており、以下の紹介ページで、ハイレベルなアカデミックな学術研究を日本語で読むことができます。

 ところが、この中には「キューバの防災力」は出てこないのです。

 その一方でたびたび話題になるのは有機農業です。「キューバ研究室」というサイトを見ると5月14日付けで「キューバの自給率」の話がでています。どうやら、マスコミがキューバの有機農業の番組を製作中で、再び同サイトにハバナから自給率を聞いてきたようです。

 すでにキューバが自給できていないことは、再三にわたりこのブログでも取りあげてきましたし、この研究室は執拗なほど真実を知らしめようとしています。これは大切なことです。とはいえ、なぜ、マスコミは何度もキューバの有機農業ばかりを話題にするのでしょうか。それ以外のテーマにふれないのでしょうか。私はむしろそちらの方に関心が向いてしまいます。

「もう10年も前から知られていた手垢の付いたテーマにようやく気づき、震災を経験した日本には、明るい話題が欲しいのだし、視聴率も取れそうだから」

 すなわち、アホで間抜けなマスコミという安直な解答がまず思い浮かびます。ですが、プロの番組制作会社が、それほど愚かだとは思えません。もしかしたら、彼らは、キューバが有機農業で自給できていないことを百も承知の上で、いまという時期に国民を鼓舞するために、確信犯として、幻影を描こうとしているのかもしれない、そのように善意で解釈することもできます。

 例えば、この3月に板垣真理子さんの『キューバに行きたい』という写真集が出ています。

 この写真集は作家の作家・池澤夏樹氏が5月11日の毎日新聞で、次のように推奨しています。

「池澤さんは「日本はこれまでよりも貧しくなる」と言い切る。「これ以上の原発推進が難しいこともあるけれど、地球上の原油も、もう残り少ないから火力発電にも限界がある。また、風力や太陽光ですぐに電力量が増えるわけではない。とすれば、少しずつ使うしかないでしょう。産業成長は鈍り、我々もこれまでの消費中心の考え方から抜け出さないといけない。そして、この国の針路の一つのモデルとして「キューバ」を挙げ、「キューバへ行きたい」(板垣真理子著、新潮社)を薦める。

「キューバは有機農業が盛んで、医師は日本の3倍ほどもいる。歌って踊る明るい国民性もあります。昔の沖縄の暮らしも例としていいでしょうね。「幸福の尺度」を変えなければいけないとすれば、書物は大きな助けになるだろう。そこからヒントを得て、不安解消につなげたいものだ」


どのくらいの時間1992年ロイヤルランブルが一致しました

 素晴らしい。なによりも、この辺境の列島に住む民族は「山の彼方に幸い住むと人は言う」の如く、海の彼方の国々に過剰なまでの幻想を抱くのが得意です。欧州にそれを求めたのは明治維新(1868年)からですから、たかだか150年。米国にそれを求めたのは敗戦後(1945年)からですから、たかだか50年です。それ以前の江戸時代のモデル国は中国でした。唐の国からの文字情報だけで孔子の思想を理想化し、本国を上回る倫理観を持っていたかもしれない儒教国家を築きあげてきたのです。ですから、私は「希望の幻想」としてのキューバの有機農業のイメージが発信されることは、決して否定しません。

 これからはピーク・オイルの時代に入り、庶民が気安く現地に足を運べなくなることを考えれば、限られた動画や画像や文字情報を介して、マルティやフィデルの思想を理想化し、キューバを上回るエコロジー力を持つ持続可能な国家が築きあげられることにつながるのであれば、勘違いもあながち否定すべきことではなく、それはそれで素晴らしいことではありませんか。

キューバの有機農業の話題づくりを嫌味に深読みしてみる

 ですが、原発を巡るマスコミの情報統制。その裏に見え隠れする米国の思惑を考えれば、ここで想定した番組製作会社の善意とは裏腹に、その番組の企画を採択するテレビ局のディレクターやプロデューサーの側にはさらにもっと深い意図があるのではないか、と勘繰りたくもなります。

「カストロの独裁によって、自由なき貧しき人々がしたたかに耐え忍んで生きている」というのは多くの人がいまも抱いているキューバの一面の真実です。

「サルサやダンスが盛んで、有機農業大国。無料の医療で誰もがハッピー。スローライフの天国」というのは、少しでも調べればすぐにでもわかり、しかし、マスコミがなぜかこれまで報じてこなかったために、意図的に私が拡散してきたキューバのごくごく表層的な一面です。

「平等を重視した経済政策が破綻し、格差が広がり、経済の自由化を求め、改革に難航しているキューバ」というのが、冒頭で紹介した、プロのアカデミックならば誰もが周知しているキューバの本当の実態です。

 とはいえ、この後があります。であるならば、なぜ、キューバの人々は現体制に不満をいだき、第二の革命を引き起こそうとはしないのでしょうか。米国から圧倒的な支持を受けたバチスタ政権をただ不満だと言うだけで、ひっくり返して見せたのがフィデルです。フィデルは例外なのでしょうか。第二のフィデルは現れないほど、いまの独裁政権の人民統制は精緻にして磐石だからなのでしょうか。

 これに対し、私が思っている解答は、こうです。

「対米従属の傀儡政権を打倒し、民族主義国家の主権を守んがために独立を果たした現政権を支持しているから」

 いまも国家主権を守るため、学生も学校で軍事教練を行い、ひとたび米兵が本土に上陸してくれば、1200万国民のうち、最大700万人が民兵(民間戦闘員)となってゲリラ戦を戦い抜く。いかにハイテク戦争の時代とはいえ、最終的にその国を制圧するには地上戦がかかせない。たとえ首都ハバナが陥落したとしても、町という街、村というムラがゲリラの潜伏拠点となり、各地に散らばる診療所や病院は野戦病院として活動し、足をもがれ手をひきちぎられた市民たちは施術を受ければ直ちにカタワの兵士として再び戦場に立つ。七人一殺。たとえ、700万人が血だるまとなって殺されても100万人の米兵をば地獄への道連れにせずにはおくものか・・・・。

 この決意があればこそ、おっかなすぎて米国も手が出せない。多くの国民が現政権を支持し、あえて自由を捨てているのも、対米独立を望んでいるがためだと思うのです。

 このキューバの奥深い信実は、日本のマスコミは断じて描こうとはしません。怖いからです。キューバ革命では、貧富格差の解消と国家主権、すなわち、国防に最も重きが置かれてきました。優れた医療も防災も国防と密接に関わってきます。

 もちろん、このような軍事面もキューバのまた一面であって、拙著にも書いたように、革命キューバの最高のイデオロギーは「赤ちゃんは幸せになるために産まれて来る」だと私は思っています。赤ちゃんが幸せに産まれるためには、災害時にお腹に赤ちゃんを抱えたお母さんがストレスを感じてはなりません。なればこそ、ハリケーン時には、妊婦が最重視され、特別の産院にいちはやく退避します。ここまでのイデオロギー的こだわりには、ある種の畏敬感すら覚えます。赤ちゃんを大切にする国家とはそのようなものなのかと。

 ですが、このイデオロギーを貫徹するためには、米国のイデオロギー「赤ちゃんは、お金のためには幸せにならなくてもかまわない」と対峙しなければなりません。だから、赤ちゃんのために戦う。

 今回の取材では、キューバを視察中の大阪府の民医連の医療関係者を中心としたグループとも偶然一緒になりました。ハバナで行われたキューバの防災専門家との講演・意見交換会にも便乗して参加させていただいたのですが「防災と国防は一体のものである。学生たちは、防災訓練だけでなく軍事教練もカリキュラムで学ぶ」と発言したとき、さぞや驚かれたことと思います。

 つまり、世界最大の超大国と対峙しながら、50年にわたってその国家主権を侵されずにきたキューバには、敗戦後の戦後日本がタブーとしてきた①国家主権、②国防軍、③対米関係という三つのテーマが深く関わっているのです。

 おまけに、キューバはエネルギー政策についても、脱原発を行い、ベネズエラとの石油外交を繰り広げています。

 今回の原発問題は、①グローバル巨大企業VS民選国会議員、②国家非常事態下での自衛隊、③科学技術と米国関係という課題を投げかけました。ですから、ここがタブーなのではないか、と思っているのです。

 となると、想定ですが、テレビのディレクターの間では、例えば、このような対話がなされているのではないでしょうか。

「医療に関心を持つ人たちの間で、キューバがごく少数とはいえじわじわと話題になっているようです。これまでは、民医連とかサヨク関係者に限られてきましたが、だんだん保守系にも広がってくることが懸念されます」

「まずい。実にまずいぞ。連中も馬鹿ではない。このグローバル時代のことだ。たとえ現地取材をしなくても、ネットを使えば、英文でかなりの情報が引き出せてしまう。例えば、アジア経済研究所の学術研究者、山岡加奈子氏はこんなことを述べているぞ。

『社会主義国に共通だと思うのですが、いわゆる内部資料はもちろんのこと、普通の研究者のフィールド調査のデータすらなかなか手に入りません。政府が発表したデータは往々にして不十分だったり、建前を説明するものに過ぎなかったりしますので、データで裏付けていく実証研究は非常に困難です。特に帰国後の数年間は、キューバで出されている資料をどう扱ったらよいか悩みました。ですが、アメリカのキューバ研究者はキューバ系の人が多く、たとえ現地に行かなくてもいろんなチャネルを使って資料や情報を収集することができますし、現地経験では、2年いただけの私なんか足元にも及びません。海外派遣でキューバにどっぷり浸かって帰った後、改めて彼らの書いたものを読むと、そのすごさが分かりました』

 つまり、早晩、連中はキューバの防災医療にも関心を持っていくわけだ。そして、防災医療を根幹で支えている反米戦略や軍事にも。いかん、いかん。キューバのそのようなジャンルにまで関心をもたれては危険だ」

「まことに。ところで、いま、キューバの有機農業の番組企画が来ていますが、どうしますか。もともとキューバが有機農業で自給できていないことは、プロの研究者にとっては常識中の常識なのですが、それをあえて無視してスローライフの天国として、明るいキューバを描く企画のようです」

「そいつはいい。サルサやダンスが盛んで、有機農業大国。誰もがラテンの気分でハッピー。スローライフの天国というイメージならば無害だ。いや、そういう無害なキューバ観を植え付け、いち早く視聴者を洗脳しておかねばならん」

「ということは、この企画は」

「むろんゴーだ。だが、防災医療やイデオロギーの部分はことごとくカットし、あくまでも表面的なものにとどめるように」

「わかりました」

 と、まあ、ここまでは深読みなのかもしれませんが、ある種の深い意図すらあるのではないかとも思える、傀儡政権に限りなく近い親米政権の混迷ぶりです。

 ですから、グローバル企業の資本の論理によって左右される民放はやむをえないにせよ、私たち視聴者、消費者の論理によって左右されるべき日本国家国営放送たるNHKが、キューバの防災とその赤ちゃんを守る論理を取材するとするならば、それは、私たち日本国の国家主権の回復に向けた大いなる第一歩だと私は思うのです。

 ということで、キューバ防災サイトを充実させました。新のマークが付いたものが、今回の充実分です。こちらは、このブログのようにふざけてはおらず、一生懸命やっております。ご関心があれば、ご覧くださいませ。

2011.5.8

しなやかな安眠社会へのヒント

防災大国キューバは北米では常識?

 いま、トロント国際空港に隣接したホテルで目が覚めたところです。カナダのホテルはキューバとは違って、シェラトンであれ、ヒルトンであれ、どの部屋もホテル内はすべて禁煙です。高級ホテルにも喫煙ルームはありません。ですから、愛煙家はホテルの建物の外に出なければなりません。例えば、今回、宿泊しているシェラトンはレストラン裏の駐車場の片隅が喫煙場所です。現地時間は、5月8日(日)の朝8時。Tシャツ一枚でも汗が出てくる昨日までのキューバとは打って変わって、長野の早朝と同じように涼やかな風が吹いており、カーディガンを重ね着しても薄ら寒いほど。幸いなことに、空気には放射性物質が含まれていないし、私が吸っているキューバ産の「コイーバ」は有害化学添加物が含まれいませんから、安心して� ��の奥まで煙を吸い込むことができます。

 しかし、ホテルの建物外にわざわざ出てタバコを吸うメリットもあります。嫌煙家には理解できないでしょうが、愛煙家が灰皿のまわりに集まり、見知らぬ間柄の中で、自然なコミュニケーションが始まるのです。

 今回出会ったのは、米人デトロイト出身の若い夫婦。

「旅行ですか」

「ええ、日本は今回の地震で酷い被害を受けた。そこで、キューバに防災対策の調査にいってきたんです。あなたの国ではカトリーナ・ハリケーンで大変な被害がでましたが、それと違って、キューバはほとんど被害がでない。そのシステムを学びにいってきたわけです」

「本当に日本の津波と原発は大変だね。キューバが防災に優れていることはよく知っているよ。羨ましいな。米国からはキューバにいけないのでね。ブッシュからオバマになったからだだんだん変わるといいんだけれどもね」

 とまあ、こんな感じです。

 ちなみに、4月29日にカルガリーからトロントへと向かう深夜便でも隣席に座ったのは、カルガリー郊外からカリブ海へとバカンスに出かける老夫婦でした。

「バカンス。それとも、お仕事なのかしら」

「ビジネスです。ご存知のとおり、キューバの防災対策の調査にこれから行くのです」

「それは、いいアイデアだわ。キューバは不思議なことにほとんどハリケーンでも死傷者がでない国だもの」

 とまあ、こんな感じです。

 さて、ここで米人とカナダ人という二つの庶民のサンプルの事例をあえてあげたのは、キューバが防災大国である事実が、ごく普通の常識となっているように思われることです。日本でもアカデミックな学術研究者たちの中では、わざわざ日本語で情報にして発信する必要もないほどのイロハの「イ」の事実であって、なおかつ、キューバの持つ問題点や課題も周知し分析したうえで、学術論文がでているのかもしれません。しかし、少なくとも、広くは知られていません。例えば、私のブログを見てくださった方は、こんな感想を書かれています。

「昔みた、キューバ音楽映画くらいしか、キューバという国の知識はなかったのですが防災大国だったとは、驚きです!」

 つまり、キューバの防災力を現地取材し、わかりやすい言葉で発信すること。これが、今回の私の旅の目的でした。

自己満足の免罪符~ライターとお金の話

 さて、これから昼過ぎの成田行のエア・カナダで日本へと向かいます。日本に着くのは9日(月)の夕方で、10日(火)からは本来の私のサラリーマン生活へと戻りますが、時差のためほぼ一週間は睡魔と闘いながら、慢性的睡眠不足が続くこととなります。よく脳も働きません。そこで、今回の旅の簡単な報告をまとめておきます。

 さて、前回のブログでは、「私の尊敬する防災の専門家とともに、キューバに調査にいってきます。とにかく『私ができるささやかな行動』という、ある意味では『義憤』にかられた思い付きです。どこまで成果が還元できのかわかりませんが、これから成田へ出発します」と書きましたが、結論から言うと「想定外」の成果が得られました。

 実はキューバは取材がとても難しい国です。

 第一にお金がかかります。外貨獲得のためにホテルの宿泊代も外国人には高く設定されていて、一泊1万円程度しますし、食事もちょっと食べれば一回、1000円、2000円と飛んでいきます。ガソリン代も高いため移動用の車の確保も困難です。ハバナの旧市街で偶然であった若い日本の女性も「予想以上に物価が高くて、お金がなくなっちゃった」と言っていました。ですから、豊かな日本であっても、あまりお金がない若者がフラリといける国ではありません。

 第二に取材には許可が必要です。私はいつもキューバ外務省の国際報道センター(CPI)からジャーナリストビザを発行してもらい、それから取材を行っています。報道センターは私の取材依頼を受け、どこを取材したらいいかを現地の共産党事務所等と調整し、適切な取材場所をアテンドしてくれるのです。これは、逆に言えば「共産主義国家で情報統制されているから、優良事例以外は見せないのだろう」と解釈することもできます。しかし、好意的に取れば「共産主義国家で情報統制されているおかげで、海外PRのため、参考となる優良モデル事例を容易に取材できる」と理解することもできます。

 多くの方がブログ等で私を批判されているように、私は「確信犯」としてキューバ情報を発信しています。「キューバ=自由なき独裁国」というマスコミが作り上げてきた「洗脳」を解き、少なくとも上述したカナダ、米国レベル並みへと日本の一般のキューバ観を横並びさせるため、意図的にキューバの優良事例を発信しているのです。

 もちろん、こうした作業は、本来はプロのアカデミックやジャーナリストがやることでしょう。ところが、日本ではフリーランスのジャーナリストがお金を稼ぐことがとても困難です。私が尊敬する松永和紀さんのような一流のジャーナリストでさえ、筆だけで食っていくのが難しい。松永さんは、2009年5月24日に「科学ライターのお金の話1」でこう書かれています。

『科学ジャーナリスト賞2009で大賞を受賞した北村雄一さんはこう言っている。「年収200万円を越えるには本を4冊書く必要があり、年収300万円を越えることは原理的に不可能である」 フリーのライターは文章を売って食って行かなきゃならない。科学を適正に伝えることと売れる文章を書くことが両立できないとなると、次のような可能性が出てくる。
「フリーランスなサイエンスライターは生活をする上で噂の方を優先させ、正確さを犠牲にする。 これは強力な圧力であると言えるでしょう。生か死か?(略) 。科学を適正に伝えるフリーのサイエンスライターが存在しえない、ということになれば、どうしたらいいか?。北村さんはこう提案する。「国家官僚がサイエンスライターをやればいいじゃないか」」

 ひたすら、賛同します。ちなみに、今回も取材費だけで約50万円/人ほどかかっています。人件費はもちろんでません。私は1年に最高3冊の本を書いたことがありますが、私のように売れないライターの印税では取材費すらでません。そこで、私の情報発信は、国家官僚ではないにしても、地方公務員という本業があってこそ成りたっていることになります。

 第二には取材の許可の話しです。実は今回はキューバ外務省の国際報道センター(CPI)からジャーナリストビザがおりませんでした。理由は時期の問題です。

 ひとつは、今回は私の思い付きで1月前にキューバ側にお願いしたこと。実はキューバでは、ヒロン湾勝利50周年、第6回共産党大会、それに伴う法改正と大きなイベントが目白押しで、非常に多忙で調整時間がない中で、急な調査をお願いしたことです。

 第二に、キューバはこれからハリケーンの季節に入ります。そこで5月14、15日に防災訓練が全国で一斉に行われる。防災関係部局はとても多忙で対応できない。ハリケーンが一段落した11月にしてほしい、というのが理由でした。しかし、上述したように私はサラリーマンですから5月の連休しか休みが取れない。おまけに、多くのNGOや志ある人々が被災地で活動されている中、何一つできない自分に対し、何か行動をしなければいたたまれない気持ちが高まっていました。連休ですからフライト便も早く抑えなければ埋まってしまう。とりあえず、チケットも買ってしまいました。取材ビサがなくても、ツーリストカードがあれば、入国だけはできます。ある意味では、自分の心の免罪符を得るために、自己満足でキューバに押し掛け� �ようなこととなります。


 結果として、いつもキューバ取材で世話になる瀬戸くみこさんから、成田に向かうリムジンの中で、本国でツーリストカードを取材ビザに急遽、切り替えることが決まったとの連絡が入りました。一安心です。そして、外務省CIPのアジア極東担当のニウルカさん、通訳のミゲル・バヨナ氏の尽力で、最大の被災地、ピナル・デル・リオ州の共産党本部と連絡を取り、グスタフとアイク・ハリケーンの激甚被災地、ロス・パラシオス、コンソラシオン・デル・スル、ラ・パロマを二日かけ濃密取材することができました。

 また、実際にハリケーンを体験した草の根の市民の声から、キューバの防災対策を見るという当初の私の希望どおり、ハリケーンの高波で家に土砂が入ってきた地区住民や事前の防災準備で避難がでなかった下町の区長さん(選挙で選ばれる)、赤十字のスタッフとして長年防災対策に従事してきた方等、多くの生の声を聞くことができました。

 現地では、「日本の震災を我がことのように心を痛めている。日本政府からはなんら支援要請がないが、あれば、国際連帯として我々のできることは何でもしたい」というキューバ市民の声もいただきました。キューバではハリケーンの被災地では被災者たちの精神的ストレスをいやすため、ボランティアで芸術家たちがダンスをしたり、サーカスをしたり、音楽会を開いたりする。それを日本でもしたいというのです。この気持ちはありがたく受け止めたいと思います。

 また、指導者の立場にあるキューバ人からは「日本人は本当に優秀だし、技術も優れ、資金力もある。しかし、政治的なシステムと対応策がおかしい。キューバ人は、経済封鎖のために物資も資金力も乏しい貧しい国だが、ハリケーンで死傷者がでないのはひとえに、政治的システムのためだ。日本はもっと素晴らしい国として復活することを期待している」との耳の痛いアドヴァイスももらいました。

客観性と情報の信頼性

 さて、私は「確信犯」としてキューバ情報を発信していると書きましたが、今回の震災問題は、重大なうえ緊急性もあり、おいそれと私の個人的な思い付きだけで情報を発信することはできません。そこで、キューバを訪れるのは初めてですが、ドイツ、米国、フィリピン等、先進国と開発途上国の防災事情にも詳しく、かつ、日本でも阪神淡路大震災や中越地震等でも現地調査や災害復旧に携わってこられた、私の尊敬する防災の専門家に無理な同行を願い、一緒にキューバをまわってきました。

 結論だけ述べると「この国の事前の防災準備、そして、被災後の住宅改築等の復興対策もたいしたものである。資金や物資が乏しいなかで、これだけのことができるのは、本当に頭を使っているからだろう。日本にどこまで参考となるかわからないが、私自身の考え方や発想にとっても大変な勉強になったし、刺激を受けた」というものでした。

 これは、ある意味の客観的評価のひとつになるのではないかと思っています。この客観性を前提に、私は「希望」をキューバからもらいました。それをいかにマインド・コントロール、すなわち、私の文章をお読みいただける読者が共感してもらえる形で表現・発信できるのかが私の責任でしょう。どこまでできるかわかりませんが、ご期待ください。
トロントにて(朝10:10)

2011.4.29

キューバ防災補完計画

 拙著「没落先進国~」のキューバの防災については、出版元の築地書館の好意により、PDFファイルで無料公開しているところですが、実際にキューバの人たちはハリケーンが近づいてきた時にどのように避難しているのでしょうか。なぜ、自動車やガソリン、道路といったインフラが乏しい中でも、安全な避難ができるのでしょうか。

 「防災力」=「レジリエンス」とされているとの話もしましたが、キューバはレジリエンスに富んだ社会、ことハリケーン等の災害に関しては、「しなやかな安眠できる社会」と意訳できるかもしれません。

 一方、今の日本は物資もインフラも、キューバとは比べ物にならないほど豊かにあるのに、こと原発・地震等の災害に関しては、「ガチガチで安眠できない社会」なのかもしれません。

 福島では県土の70%が放射能汚染されており、国際的には1ミリシーベルト/年というのが成人の限界で、子どもはその10分の1にしないと癌にかかって危険とされています。現在、「放射線管理区域」に相当する学校が75%以上存在し、「個別被ばく管理区域」に相当する学校が約20%も存在することがわかっています。ところが、政府はいきなり20ミリシーベルトが日本の基準だとし、子どもたちを避難させないというのです。

 キューバであれば、子どもたちを汚染から守るためにきっと避難させるのではないでしょうか。

 また、話が飛びますが、2010年のベネズエラ豪雨では、被災者は10万人以上にのぼりましたが、チャベスすぐに一般ホテルや使用されていない建物を被災民のために一時的に提供するように命令を下し、軍の施設も避難民に提供しました。さらには大統領府も避難所に開放し、家を失った数十世帯を大統領官邸に受け入れたといいます。チャベスの行動は日本のメディアではほとんど報道されませんでした。ですが、チャベスの行動からは、私はこうも言える気がします。

 チャベスであれば、子どもたちを汚染から守るためにきっと避難させるだろう。

 ということで、今日から連休中、9日まで、私の尊敬する防災の専門家とともに、キューバに調査にいってまいります。従来の著作執筆のための取材は、事前に十分に文献調査を行い、取材や調査先も国内で調べられあげるだけ調べたうえでの調査でしたから、かなり効率的なアウトカムが得られました。しかし、今回は、国際基準をうわまわる放射線を浴びていながらも、避難することすらできない福島の子どもたちのために、とにかく「私ができるささやかな行動」をという、ある意味では「義憤」にかられた思い付きです。どこまで成果が還元できのかわかりませんが、これから成田へ出発します。

 さて、話はまた飛びますが、これまでの発表では、一時間あたり1テラベクレル、即ち1兆べクレル。一日では24兆べクレルとされてきました。しかし、4月22日に、鳩山前総理の勉強会で、「一日あたり、100兆べクレル」と、ぽろり原子力安全委員会がもらしてしまいました。大手マスコミはこの情報を無視しましたが、Uストリームで市民ジャーナリスト、岩上安身氏だけが発信しました。この結果、読売新聞も次の日に次のような記事を書くことになります。

 とんでもない記事です。こうした動きを受け、政府と東京電力の事故対策統合本部は23日、東電本社と経済産業省原子力安全・保安院、原子力安全委員会が別々に行っている記者会見を25日から一本化すると正式に発表しました。

 記者は事前登録制となり、フリージャーナリストも参加可能ですが、参加の可否は保安院が審査することとなります。保安院の西山英彦審議官は参加記者に条件を付ける理由について 「メディアにふさわしい方に聞いていただきたいと考えている」と説明しました。

 これでデマ情報は排除されることでありましょう。さすが僕らの保安院です。ところが、この保安院の記者会見に対する外国メディアの反応はこのとおり。これまでは記者1:説明側10だったのが、ついに、記者0で、比率は無限大になったのです。

 せっかく、福島の子どもたちが国際基準の20倍もの放射線を浴びていても大丈夫とか、素晴らしい情報を発信してくれている僕らの保安院に対して、なんというふざけた対応ぶりでしょう。

 我れらが、保安院を中心に一億玉砕火の玉で団結しなければならない我が國に対して、許しがたき暴挙です。こうした輩は、こうののしってやらなければなりません。

 「この非国民どもめが」

 あれ、もともと外国メディアでしたから、非国民でした。
 ということで、おあとがよろしいようで。

 9日まで、このブログは、しばらく、お休みします。

2011.1.4

SRI


 キューバのSRIについて、アポフ教授のサイトのまとめを載せておきます。

2007~2008年
■SRIの概要がスペイン語に

 レナ・ペレス博士が、2008年現在の世界やキューバのSRIの状況をスペイン語でまとめた(El desarrollo del SICA en el mundo)。レナ・ペレス(Rena Perez)博士は、砂糖省の食料安全保障アドバイザーで、SRIをボランティアでコーディネーターをしているが、博士の取組みにより、キューバはアメリカ大陸において、SRIに初めて本格的に着手した国となった。

■2008年6月、ハバナにおける国際稲作会議でSRIが紹介 2008年6月2~日、第4回国際稲作会議がキューバで開催され、SRIの経験について円卓会議がもたれた。パナマにあるスミソニアンの熱帯研究所をベースに異なる土壌条件下でのSRIでのフィールドリサーチが、カナダのマリー・ソレイユ・ターメル(Marie-Soleil Turmel)によりなされた。また、全国農業科学研究所(INCA)のラザロ・マキエラ(Lazaro Maquiera)は、ロス・パラシオス(Los Palacios)にある同研究所の研究センターでのSRIの評価を紹介した。アンヘル・フェルナンデス(Angel Fernandez)はペルーで実施したSRIの評価と見通しについて述べた。

 ピナル・デル・リオ州の農業協同組合(CPA)、カミロ・シエンフエゴス(Camilo Cienfuegos)の主席農学者、ホアン・リアムバウ(Juan Riambau)は、2001年からSRIの評価を始め、多くの成功をあげたことを紹介した。

 ノーマン・アポフ博士が、SRIの世界動向を報告した(会議と二カ所の視察リポート)(1)

■第1回都市農業グループSRIワークショップ開催
 2007年11月21日、全国都市農業グループは、SRIを促進する目的で全国都市農業ワークショップをハバナで開催し、14州のうち7州から、役人、米の専門家ら31人が参加した(1,2)。

 会議は熱帯農業基礎研究所(INIFAT= Instituto de Investigaciones Fundamentales en Agricultura Tropical)所長のアドルフォ・ロドリゲス(Adolfo Rodriguez)博士、農業省人民稲作の代表、ルイス・アレマン(Luis Alemán)博士、稲作研究所(IIA=Instituto de Investi gaciones del Arroz)所長のホルヘ・ヘルナンデス博士(Jorge Hernandez, Director)が仕切った。
また、ニカラグアの全国農業技術研究所長でバヤルド・J・セラノ・フェルナンデス(Bayardo J. Serrano Fernandez)博士も参加し、スペイン語のSRI関連資料を受けた。内容は以下のとおりである。

○レナ・ペレス博士がSRIのパワー・ポイントでプレゼンを行い、2001年の着手以降、4人がSRIの経験を披露した。
1) CPA(Cooperativa de Produccion Agropecuaria)、カミロ・シエンフエゴス()のホアン・F・リアムバオ(Juan F. Riambao)は、乳苗と早期の田植えの理念を強調した。SRIでは良質の米が得られ、収量は6~9.5t/haであった。

2) CPAホルヘ・ディミトロフのロドルフォ・ディアス(Rodolfo Diaz)氏は、72人の協働組合員や家族を養うため稲作が必要だが、SRIでは用水量が削減でき、灌漑用の石油が大きく節約できると述べ、また、ひこばえの研究の必要性を指摘した。

3) CCS(Cooperativa Credito y Servicios)、ヘスス・メネンデス (Jesus Menendez)に所属するルイス・ロメロ(Luis Romero)技師は、元機械技師から農業へと転職したが、SRIでは穂の結実が良く、施肥のタイミングや水管理が大切で、乾期には牛耕がSRIに使えることを述べ、都市農業がSRIから確実に学ぶべきことがあることをデータで示唆した。

4)ハバナ州のキビカン(Quivican)ムニシピオで、人民稲作に従事するフランシスコ・ビエラ(Francisco Viera)氏は、以前は50~60日目の苗を使っていたが、SRIに転換し、厩肥を使用したことで、2004年以降、米収量が3.0~5.1t/haと増えたと報告した。

5) SRIの農民プロモーターである、ホセ・ガルシア・ボレゴ(Jose Garcia Borrego)氏は、CPAヒルベルト・レオン(Gilberto Leon)で40haの米生産の責任を負う人物である。仕事の都合から会議には出席できなかったが、苗が慣行稲作の30%ですみ、50%節水ができ、破損粒が少なく、病気も少ないと指摘した。

 この報告に続き、グアンタナモ州からの代表は、2ムニシピオでSRIが行われていると述べ、シエンフエゴス州からの参加者は、同州でSRIキャンペーンを始めると述べた。また、集約的に管理された菜園でSRIに取組むと述べた者もいた。
同会議では、SRI参加グループが創設され、都市農業のアドルフ代表は、今後、全国でSRIのモニターを行うため、全国に実施地区を割り当てると述べ、各14州と2自治区が12月の作付けに向け、試験を行うことに同意した。

■ハバナ州でワークショップ開催
 2008年2月27日、ペレス博士は、ハバナ州サンホセ・デ・ラス・ラハス(San Jose de las Lajas)のラ・ルダ(La Ruda)町のメネラオ・モラ(Menelao Mora )牛協働組合でワークショップを行った。また、ペレス博士はスペイン語による多くのトレーニング資料も作成し、キューバのSRI(Sistema Intensivo de Cultiva Arrocero en Cuba)と題するビデオ(スペイン語版14分、英語字幕36分)も制作した(1)。

■キューバ都市農業グループSRI第二回ワークショップ
 2009年2月、全国都市農業グループはSRIの試行結果を論じ、将来の政策策定に向けて第2のワークショップを開催した(1,3)。

 稲作研究所のサルバドル・サンチェス(Salvador Sanchez)は、都市農業グループのメンバーだが、苗作を35~40日から12~15日に、田植え時間を12~24時間から30分に、苗数を3~5本から1本へと減らすことで、SRIがすでにキューバの稲作を変えていると指摘した。また、種子を節約し収量を3倍にすることも可能だと強調した。アドルフォ・ロドリゲス博士は、いくつかの州での前年の成果を提示したが(表1) (1,3)、SRIの全国平均収量は5.55t/ha で全国平均の3.5t/haの倍となっている(1)。
そして、2009年には、国内で稲作がなされる全ムニシピオ、169ムニシピオのうち140で最低でも0.5haのSRIの作付がされるとのコンセンサスが得られた(1,3)。

 レナ・ペレス博士は、SRI向けの田植え機械を用いたコスタリカで「エル・ペドレガル(El Pedregal)」のオスカル・モンタヴォ(Oscar Montavo)氏の試験結果、とりわけ、1本苗についてパワーポイントで紹介した(1,3)。

■稲作潅漑のワークショップ開催

 1990年代までは、キューバは、国産米の半分、約50万トンを近代農業で生産していた。国内の主な3領域にある1万~3万5000haの7つの国営公社により、米は飛行機で播種されるか直播され、単作のこのシステムは、家畜用の牧草と輪作され、収量は約3.4トン/haであった。1990年代の始めの社会主義陣営の崩壊で、燃料や化学肥料供給が影響され、国営農場での高投入米の劇的な減産につながった。牧草地や土手にそって稲作を行う人民運動が自然発生的に発生し、それは大衆米(Arroz Popular)と呼ばれ、政府からも認識された。2003年には、生産は27万2000トンに達したが、高投入型の工業化稲作は5万4000トンで、大量の米が輸入された(3)。

 2009年9月30日、ハバナの灌漑排水研究所(IIRD=Instituto de Investigaciones de Riego y Drenaje)において、国産米生産のための水資源インフラの現状を論じ、除草のための湛水をせず、スプリンクラーで潅漑を行い、雑草は除草剤で防除する新たな稲作の方法を検討するため、稲作潅漑ワークショップが開催された(1,3)。議論した話題は以下の四点であった。

1) 全国水資源研究所 エドゥアルド・レイ(Eduardo Rey)技師
キューバには計239の貯水池があり、うち水田に用水を供給するための稲作用の貯水池は30だが、その利用効率は約50%にすぎない。

2) キューバの稲作潅漑の主な技術成果 灌排研アイマラ・ガルシア(Aymara Garcia)技師
イネの各生育段階の代替えとなる水管理の研究が発表された。使用水量を減らし、分げつを増やし、収量をあげる目的で、生育期の潅漑を中断するのである。適切な用水量を定量化し、新技術の実現に向けた研究行動計画が説明された。

3)新たな用排水の設計 灌排研 フリオ・キング(Julio King)技師
2000年にグランマ州でなされた試験と関連する情報が披露された。主な研究は均平にレーザを使用するもので、実験収量は8.3t/haと平均収量の倍以上であった(3)。

4) SRIによる節水効果 レナ・ペレス(Rena Pérez)博士
レナ・ペレス博士は、世界各国でSRIにより、52%収量が増え、44%節水ができ、純収益を128%増やすことを紹介した。また、ブラジルでのセンター・ピポットを用いたスプリンクラー潅漑を含めたSRIの情報を提供した。ブラジルでは、収量が3.5~8.0t/haに増えたが、生産コストは20%も減少した。ペレス博士は、SRIに適合したスプリンクラーの使用方法も示した(1,3)。

 最後に、灌漑排水研究所、稲作研究所、そして、農業省のメンバーからなるチームが管理するサン・アントニオ・デ・ロス・バニョス(San Antonio de los Baños)での小規模なスプリンクラー灌漑のSRIの実験が紹介された(2009年11月)。現在、25x25cmのスペースでさらに試行試験がされている。

■スペイン語でのGoogle GroupがSRI 議論でオープン
主にラテンアメリカと関連するSRI(Sistema Intensivo Cultivo Arroz)についての議論するためGoogle Group「ラテンアメリカSICA」が解説された。2009年2月に開始され、グローバルなSRI問題も議論され、ラテンアメリカとカリブ海諸国でSRI普及に従事している(1)。

【引用文献】
(1)SRI Activities (2007-2009)
(2) Rena Perez,Urban Agriculture in Cuba to promote SRI
(3) Cuban Urban Agriculture Convenes Second SRI/SICA Workshop
(4) Workshop on irrigation in rice



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